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第11回IEEJプロフェッショナル会総会式次第
2024年8月26日
1.目的
IEEJプロフェッショナルの活動についての方針を決定するとともに意見交 換を行う。また個人会員およびパートナー会員と電気学会幹部と交流して情報交換 を行い、IEEJプロフェッショナル活動の活性化を図る。
2.日時、場所
(1) 日時 2024年8月26日(月)17時~19時
(2) 場所 主婦会館コスモスの間(3階)(JR四ツ谷駅前)
3.参加者
(1) IEEJプロフェッショナル個人会員、パートナー会員
(2) 電気学会幹部
(伏見信也会長、田中博文副会長、六戸敏昭総務企画理事(森雄一代理)、
佐々木敏男技術者教育担当)
4.議事
(1) 総会成立確認、議長選出と議事録署名人の確認
(2) 議長挨拶(佐野光夫IEEJプロフェッショナル会代表)
(3) 活動報告及び審議(伊藤副代表司会)
① 活動報告(理科教育支援含む)
② 審議事項 2023年度決算報告(案)、2024年度予算(案)、幹事会メンバー追加(案)
(4)招待者紹介
主賓挨拶(伏見信也電気学会会長)
(5) お話し(長谷良秀(IEEJプロフェッショナル))
(6) 意見交換(六戸敏昭総務企画理事(森雄一代理)乾杯の音頭)
【お話し概要】
北海道・本州を結ぶ直流海底ケーブル900km計画へ批判
長谷良秀(IEEJプロフェッショナル)
1.策定された計画の骨子
(A案)±500kV海底ケーブル900km, 3GW、工事費1.2兆円
(道後後志~川辺(秋田)間、川辺(秋田)~柏崎間)
2.素朴な疑問
・津軽海峡30kmを隔たる北海道・本州間をなぜ900km海底ケーブルで接続するか。陸上ルート案(架空送電線+津軽海峡30km)が検討されたか。
・諸々の技術リスクや社会的リスクが考慮されているか。
・わずか2GW風力を送る送電設備として1.2兆の巨額の予算。そんな計画に現実性があるか?
・電力会社が不参加の入札計画に現実味があるか?
3.長距離海底ケーブルのリスク
(1) CVケーブルの製造リスクである。CVケーブル製造過程での絶対の品質管理(主絶縁層の微小異物・ボイド・斑などを絶対排除)が求められる。工場出荷試験は「運転電圧の2倍程度の試験電圧を一定時間課電するのみ」である。万全の長期信頼性を保証する内容ではない。
(2) 中間接続部・終端接続部と接続作業技術のリスク。約4,500個の接続部。敷設船での超々名人芸の接続作業となる。
(3) 敷設作業(水深300m以内を想定)のリスク。海底環境激変のリスク。
(4) 長距離海底ケーブルの故障発生時の故障地点評定技術は未完である。故障評定が原理的に不可能な故障モードもある。
(5) 故障点評定に成功としても、故障区間の部分修復が不可能のケースが想定される。
(6) 劣化寿命(35年?)は避けられない。
故障時の評定不可、修理不可、あるいは寿命機関到達時は海底ケーブル全長放棄を意味する。(陸上架空送電線ならば半永久使用可能。用地初期コストも半永久である。)
4.900kmケーブル計画の副作用は交流架空基幹グリッドの抜本強化計画の停滞となる。
(1) 未来100年の視点に立脚した新ベストミックスへの大転換に対応するためには北海道・本州陸上グリッドの抜本強化が不可欠である。
(2) HVDC海底長距離ケーブル計画の遂行は陸上輸送力強化計画の実行を削ぐ口実となる。
(3) ヨーロッパで2国間を結ぶ500km級長距離直流の実績はあるが、全て最短距離を平坦な浅海で結んでの実績。日本の参考にはならない。
5.北海道電力・東北電力・東京電力における基幹系統の特徴
旧ベストミックス時代には9社それぞれに需給の自己完結を基本施策としてきた。結果として北海道の道北&道東地域から関東に至る大電力南北輸送能力は極めて貧弱である。今、北海道&東北地域の風力を大量に織り込んだ新ベストミックス時代において長期的視点に立った陸上ネットワーク強化が必須であろう。
(1) 北海道電力は2011年時点とほとんど変わらぬ系統で大風力パワーを通過させる余裕はない。また安定度の制限もある(GWオーダーの大風力を交流で北電系統につなぐことはできない)。
(2) 津軽海峡の現状系統は北本旧ルート600MW(OF海底ケーブル)と新北本ルート300MW(2020年)で合計900MWある。
(3) 東北電力は総需要15GWの規模で、端的に言えば7県それぞれが県単位で中規模需要のバランスした系統である。換言すれば発電地域と需要地域が重なっており、系統構成理論的には理想的系統である。ただ大電力の輸送ルートとして見れば極めて細い系統である。
(4) 東京電力は原子力パワー長距離輸送を前提とする旧ベストミックス時代の大電力を前提とする大電力輸送を前提とした系統である。ゆえに東電管内の南北輸送容量は極めて大きい。その一方で火力は東京湾と茨城に集中する。東京湾岸ループは超過密系統で重負荷時はピンチである。
6.結言:見えてくる国家100年の計:国主導と当事者参加で邁進すべき方策(長谷私見)
現実的私案
カーボンニュートラル対応の新ベストミックスに移行するための必須条件として北海道の潜在大風力源の活用を国家100年の計として本気で取り組むのであれば:
「道東・道北⇔津軽海峡⇔青森」間の(道内送電線+30km海底ケーブル)をHVDC500kVにて実現するのが妥当であろう。東北電力管内の南北流通容量(架空送電線)の抜本的増加はHVACとHVDCの併用で実現するのが妥当であろう。
7.現状の電力界を憂う
電力会社の弱体化
(1) 相互調整力の低下・行動力の低下・発言力の低下・供給責任体制の崩壊
(2) 電力システムは大地そのものである。電力人は世代を継ぐ使命を担う当事者でなければならない。どの時代も未曽有の危機であった。現下の問題の放置は許されない。
(3) 電力当事者として無言が過ぎないか。リスクと安心(対策)をこそ積極に発信すべきである。
8.国家100年を見据える超大プロジェクト計画実現のためには[エネ庁主導の入札計画]ではだめ。「エネ庁主導の計画実行組織」の設立をこそ期待する。たとえば昭和27年の「電源開発株式会社」のような限定プロジェクト実行会社またはJVの設立。一歩一歩の計画推進。
9.電力界(個人・法人)は社会的ミッション機能を果たしているか?
(1)九電力事業者の発信力。「無言or安全なふり」に代わり「リスクと安心を説くべき」。
(2)指導的アカデミーは? (3)業界紙は? (4)電気学会は?
(以 上)
IEEJプロフェッショナル会第10回総会式次第
2023年8月21日
1.目的
IEEJプロフェッショナルの活動についての方針を決定するとともに意見交換を行う。また、個人会員およびパートナー会員と電気学会幹部とが交流して情報 交換を行い、IEEJプロフェッショナル活動の活性化を図る。
2.日時、場所
(1) 日時 2023年8月21日(月)17時~19時
(2) 場所 主婦会館(8階)(JR四ツ谷駅前)
3. 参加者
(1) IEEJプロフェッショナル個人会員、パートナー会員
(2) 電気学会幹部
(安田恵一郎会長、本吉高行専務理事、田中博文総務企画理事、佐々木敏男技術者教育担当)
4.議事
(1) 総会成立確認、議長選出と議事録署名人の確認
(2) 議長挨拶
(3) 活動報告及び審議(伊藤副代表司会)
① 活動報告(理科教育支援含む)
② 審議事項 2022年度決算報告、2023年度予算、幹事会幹事
(4)招待者紹介
主賓挨拶(安田恵一郎電気学会会長)
(5) お話し(柴崎一郎(IEEJプロフェッショナル))
(6) 意見交換(本吉高行専務理事乾杯の音頭)
【お話し概要】
危険と安全の数式化、図化
公益財団法人野口研究所学術顧問IEEJ プロ柴﨑一郎
§1 安全とは?
近年電気に関わる安全の議論は多いが、納得する説明は少ない。筆者は、会社で研究開発を担当したが、安全管理などには多くの時間を費やした。社員の安全、事故の防止と防災、使う機器の安全操作、みんなでやる安全活動等、色々と体験した。安全は、仕事を進める上で何より重要である。しかし、何をどのように、活動すれば良いのか、難しいこともあり、全てうまく出来たわけではない。
東北大震災による福島の原子力発電所の事故もあり、新聞、TV を通じて、災害や安全に関わる多くの議論があるが、本当に安全なのか、危険なのか、納得する理解が得られる情報は少ない。
最近、筆者が気にしている表現に、
【○○○は安全である。***が理由だ】(1)
があり、一方で、
【△△△は、危険である。×××が理由だ】
という表現もある。何れも、どのくらい安全なのか、危険なのか具体的な理解が難しい。結果のみを伝える表現かも知れない。関係する専門家には、理解できていると思われるが、筆者も含めて、専門家でもない、一般の人、われわれが欲しい情報は、[危険が、許容できるレベルなのかどうか]である。
良くある例は、【原子力発電所は、地下に活断層が無いから安全だ】、従って、稼働しても問題はない】の如き例で、TV や新聞に載ったことがある。なるほどとも思うが、その根拠が具体的には殆ど例示されない。本当に原子力発電所は、危険はないのか、我々部外者には、言葉以上の具体的な情報は無く、安全について、理解できないのが常である。
例えば、地震で、原子炉直下に大きな、地殻のずれや断層が生じた場合、①原子炉は破壊されない構造になっており、放射能事故や核反応の異常生じないのか、又は、破壊されても大きな危険は生じない設計になっているのか? 、あるいは、②原子炉が破壊されて大きな事故になる可能性があるのか、などの具体的な木権威関わる話は聞かれない。
筆者は、原子炉、もしくはその関連設備が地震などで壊れてもそれが大事故(大危険と言うべきかもしれないが?)にならない構造が確立しているかを確認できる情報が大切と思うが、そうした話は聞かれない。
§2 安全と危険の数式化、図化
そこで、安全や危険について、理解を簡単にする目的で、安全と危険の数式化、図式化をトライした。
1)危険の数式化、図化
危険は、2 つに分けることが出来る。R:危険(全ての危険)は、X:想定できる危険とY:想定できない危険に分けられる。更に、もう一つは、A:取り除ける危険、B.取り除けない危険に分けられる。数式で書けば
R=X+Y=A+B
である。右辺は、危険の分類の違いである。
Fig.1 (a)想定できない危険と想定できる危険の図示、(b)取り除けない危険と取り除ける危険の図示
更に、細かく分けると、想定できる危険X は、
想定できる危険X=想定出来て除去できる危険XA+想定出来ても除去不可の危険XB
に分けられる。式で書くと、
X=XA+XB
2)安全の数式化、図化
ここでは、安全(理想の安全)は、全ての危険を取り除かれた状態とする。しかし、現実は、全ての危険は取り除けない。上述のように、危険には、想定でき、取り除く可能な危険と想定しても取り除きが不可の危険、更に、想定できない危険の3 種がある。式で書くと、
全危険=想定して除去出来た危険XA+想定しても除去不可の危険XB+想定も出来ない危険Y
この式を書き直すと、即ち、我々の考える安全は、全ての危険から、除去できる危険を差し引いたものである。上式を、書き直すと、
安全=全危険-[想定して除去出来た危険XA]
=想定しても除去不可の危険XB+想定も出来ない危険Y
この右辺が、具体的な安全と言っている内容である。図で書くと、
Fig.2 安全の図(取り除けない危険が残った状態)
この様に、数式化、図化することで、安全の内容が誰でもわかるようになる。即ち、安全とは、除去できない危険が残っている状態である。この図を見れば、どの様な具体的な危険が残っているのかという問いが出来る。また、安全イメージもはっきりする。
***が安全と言うときは、この様な図を書いて、残っている危険を具体的に示してもらえば、具体的にその状況が理解できる。そして、安全のレベルが、許容できるかどうかの判断につなげることが出来る。
繰り返すが、安全とは、危険の残る状態である。との認識の上で考える発想も必要であろう。当たり前のことを書いたが、IEEJ プロの皆様の議論、アドバイスを期待したい。本日申し上げたかったことである。
3)人間に関わる危険(上述の数式化に関連して考えたこと)
人為的なミスなどで生じる危険は、想定出来ても、その完全な除去は難しい。
しかし、下記のように、人の習性を理解しておくことは、安全上重要である。
●人は[安全]と言うと、安心という油断をする傾向がある。→危険、事故、不安全安全率小
一方、
◎ 人は[危険がある(残る)]と言えば、常に注意して、対応を考える。→安全率が大
この様に、人間に関わる危険は、状況の認識でも変わる。また、操作ミスなど確率的なものもあるが、故意のものなど多様であり、想定出来ても除去が難しいことを述べておく
4)原子力発電所の事例
原子力発電所の例で数式化、図化の効用を検討してみる。下記は、検討用のイメージ図である。
Fig.3 原子力発電所の安全の図示(空色の部分が取り除ける危険でその他の危険は残る:これはコンセプトを説明するイメージ図で実際とは違う)
5)火力発電所の事故と原子力発電所の事故の違い(私見)
同じ発電所の事故であっても、火力発電所と原子力発電所の事故は全く違う
① 火力発電所の事故=火力発電所の事故
② 原子力発電所の事故=火力発電所の事故+化学工場の事故
核燃料等、巨大な放射性発熱物の存在、危険な毒物、危険なガス発生、放射能汚染など化学処理や危険物の流出、排出等がある。
§3 あとがき
安全は、何よりも大切であるが、その実態はなかなかわかりにくい。しかし、よく考えてみると数学の計算とは違い、常に正解が一意的に決まるわけではない。色々な解が在る。今回、安全という概念を数式、図化してみたが、この図もまた、同じ対象の安全であっても幾つもの解、即ち図の書き方が生じる。しかし、図を書くことで、ケーススタデイもやりやすくなり、より良い解に到達する可能性もある。納得できる、より良い解に到達しない場合や最悪の時は図を作成できない、書けないこともある。その時は、我々の安全に関わる情報や検討が十分でない可能性もある。
何かの折に、安全の図を作成し、考えていただければ幸いです。
以上(文責柴﨑一郎)
IEEJプロフェッショナル会臨時総会次第
2022年12月20日
臨時総会を下記次第で開催。
1. 開催日時 2022年12月20日(火)14時~16時
2. 臨時総会 Zoomオンライン
3. 議事
(1)臨時総会開催理由
(2)臨時総会欠席の場合の対応
(3)会則の改正
(4)寄付金運営細則案
(5)2022年年度予算
以上
IEEJプロフェッショナル会第9回総会式次第
2022年8月22日
1.目的
IEEJプロフェッショナルの活動についての方針を決定するとともに意見交換を行う。また個人会員およびパートナー会員と電気学会幹部と交流して情報交換を行い、IEEJプロフェッショナル活動の活性化を図る。
2.日時 2022年8月22日(月)14時~16時
3.方式 Zoomによるオンライン
4.参加者
(1) IEEJプロフェッショナル個人会員、パートナー会員
(2) 電気学会幹部
(安田恵一郎会長代理、藤原昇専務理事(講演除く)、難波雅之総務企画理事)
5.議事
(1) 主催者挨拶(佐野光夫IEEJプロフェッショナル会代表)
(2) 活動報告及び審議(佐藤幹事長司会)
① 2021年度会計報告及び活動報告
② 審議事項
1)役員担当変更
2)会費の徴収方法
3)会則の変更
(3)招待者紹介
主賓挨拶(安田恵一郎電気学会会長代理)
6.講演 鈴木浩(IEEJプロフェッショナル)
「電力事業の進化に向けて」
【講演概要】
「電力事業の進化に向けて」
メタエンジニアリング研究所
IEEJプロフェショナル
鈴木 浩
1.進化論に学ぶ
メタエンジニアリングは従来型エンジニアリングと違い、隠れた問題の発見、俯瞰的な見方、解決手段として技術だけでなく社会科学・芸術まで範囲を拡大し、社会価値をも生み出すことを目指している。
what1 → why → what2 → howの思考を経て問題の本質に迫り、新しい価値を創造する。
電力の進化を考えるにあたって、進化とは適応と変異の繰り返しであることを知ることが大事である。
太刀川英輔著「進化思考」では、進化には9パターン(変量、増殖、分離、擬態、転移、逆転、欠失、交換、融合)の変異があり、その変異のパターンに応じたイノベーションが考えられる。例えば、江崎玲於奈はトランジスタにリンを入れ過ぎたことにより、トンネル効果を発見した。(9パターンの変量の例)
2.停電に見る電力事業のミッション
下記のように過去の事故例を挙げる。
(1)御母衣事故
1965年 電源開発の御母衣変電所に落石があり、地絡が発生し、ループ送電のカスケード遮断により、2,940MWの70%が停電した。
(2)東北電力停電とニューヨーク停電
1976年12月に東北電力で一時間程度停電した。1977年7月ニューヨークで5~25時間停電した。
(3)1987年7月東京電力西地区で停電した。
(4)2018年9月地震発生により、北海道電力系統崩壊が発生した。
(5)2019年9月台風により、千葉県広域停電した。
電力事業では、事故の発生とそれに対するミッションを時系列的にみると、初めはとにかく電気を供給する、次に電力供給の質の確保、さらに系統運用の柔軟性、持続可能性への対応が求められてきていることが分かる。しかし電力会社の営業利益は長期的に減少してきているため、持続可能性に課題は残る。
3.電力需要における将来に向けた課題
電力需要が1,000TWh/年から800TWh/年まで減少しながら新しいサービスを求められる将来に向けた課題がある。その対応として、次の5つの”D”を提案する。Data-utilization(データ収集と販売事業、データ活用)、De-energization(エネルギー以外のビジネスへ)、Dispersification(カーボンニュートラル、自律型マイクログリッド)、Democratization(需要家中心のエネルギー)、Diversification(国際化、多様化、個人の活躍の幅拡大)である。
イノベーションの民主化は第1の波(イノベーションは誰でも担えるように民主化、メーカ主導からの脱却)から第2の波(誰でも使える広範な技術が揃ってきた)に移行し、誰でもが実現できる時代になってきた。
4.まとめ
・新規事業の立ち上げにはメタエンジニアリング思考が必要である。
・電力事業のイノベーションでは進化を考える。
・進化における変異を9つのパターンで見出そう。
・適応のうち系統化を行い、Power→Quality→Resilience➝Sustainabilityの進化に気が付く。
・新たな5つのDを見出す。データ活用、民主化など
・進化では、ハードよりソフトのウエイトが増える。
・DX(Digital Transformation)を超える方向を見据えよう。
以上
IEEJプロフェッショナル会第8回総会式次第
2021年8月23日
1. 目的
IEEJプロフェッショナルの活動についての方針を決定するとともに意見交換を行う。また個人会員およびパートナー会員と電気学会幹部と交流して情報交換を行い、IEEJプロフェッショナル活動の活性化を図る。
2. 日時 2021年8月23日(月)14時~16時
3. 方式 Zoomによるオンライン
4. 参加者
(1) IEEJプロフェッショナル個人会員、パートナー会員
(2) 電気学会幹部
(大崎博之会長、藤原昇専務理事、中谷竜二総務企画理事、佐々木敏男技術者教育担当)
5. 議事
(1) 主催者挨拶(佐野光夫IEEJプロフェッショナル会代表)
(2) 活動報告及び審議(佐藤幹事長司会)
① 2020年度会計報告及び活動報告
② 審議事項 役員の選出
(3)お話・深尾 正(IEEJプロフェッショナル)
(4)招待者紹介
主賓挨拶(大崎博之電気学会会長)
6.講演 岩本伸一(IEEJプロフェッショナル)
「2050年カーボンニュートラルへ向けて-再エネ大量導入問題を中心に」
【講演概要】
「2050年カーボンニュートラルへ向けて-再エネ大量導入問題を中心に」
IEEプロフェッショナル 岩本伸一
1.再生可能エネルギー導入と電力系統の状況
日本で、2018年度の再生可能エネルギーが総発電量(kWh)に占める割合は約17%である。2030年度の再生可能エネルギーの目標率は36-38%となっており、原子力の目標率20-22%と合わせて、トータルで59%をノンカーボンにするのが我が国の目標である。再生可能エネルギーの設備容量(kW)も急速に伸びている。これは、国の政策であるFIT(固定価格買取制度)が大きな役割を果たしているが、そのための国民負担である賦課金もどんどん上昇しており、現在、電気料金の約11%が再エネ普及のための賦課金となっている。例えば、自分の電気代が約20000円とすると、約2200円を再エネ導入のために払っていることになる。
再生可能エネルギー大量導入には、2つの制約がある。1つ目は局所的制約であり、2つ目は大域的制約である。大域的制約には、電力系統全体での需要-供給バランスに起因する周波数問題があり、特に電力会社間連系の弱い日本では重要な問題となっている。再エネ拡大に特に重要になるのは、大域的制約である。電力系統は、周波数一定のために需給バランスをとる必要がある。すなわち、需要に等しい発電を時々刻々供給しなければならないと周波数は一定に保てない。例えば、太陽光発電が無い夜から朝にかけては火力発電の出力を制御し、太陽光発電がある昼間は太陽光発電出力を勘定に入れて需要に合わせて火力発電の出力を制御しなければならない。
東京電力管内では、周波数は50Hzである。周波数は発電機の回転数に比例しているので、いつも一定という訳ではない。周波数が下がりすぎると、保護リレー装置UFR: Under Frequency Relay(周波数低下リレー)が働き、遮断器(ブレーカー)が作動し、強制的な停電が発生する。同じように、再生可能エネルギーが入りすぎると、周波数の維持が困難になる。
そのため、我が国では、再生可能エネルギーが各電力会社の接続可能量を超える前は、再生可能エネルギーを補償なしに30日抑制することが可能(※FIT法改正後の申込については、時間制で抑制することが可能)で、接続可能量を超えた場合は、補償なしに再生可能エネルギーを無制限で抑制をすることが可能というルールが作られた。それでも、再エネ連系は急速に伸びている。
2.九州における再生可能エネルギー大量導入による課題
九州電力管内では、周波数偏差目標はプラスマイナス0.2Hz である。我が国では、再生可能エネルギーを大量に導入するために、再生可能エネルギーを優遇する優先給電が決められた。すなわち、火力発電は出力下限まで下げ、揚水機も夜でなく昼に負荷として使うようにというものである。揚水機は、上池と下池を持ち、従来は、電力需要の少ない夜間にモーター負荷として下池から上池に水をくみ上げ、電力利用が多い昼間に上池から下池に水を落として発電するものであった。優先給電では、この揚水機を昼間にモーター負荷として使うようにということである。
例えば、2016年5月4日の九州電力の需給と供給のバランスを見ると、日中の太陽光・風力出力の13時実績は需要の66%であり、2018年4月29日には需要の81%が再生可能エネルギーであった。これらゴールデンウイーク時には、揚水機は従来とは逆の運転がなされた。九州電力は、再エネの出力制御(抑制)をしないよう、本州への連系線電力潮流を最大にし、火力発電機出力を下限まで下げ、全ての揚水機を、日中(夜間でなく)モーター負荷として運転したが、2018年10月に本土で最初の再生エネルギーの出力制御(抑制)を行った。再生可能エネルギーの増加が主な理由である。
九州電力のケースでの教訓は以下の通りである。再エネによる周波数問題の解決に、揚水発電機は調整力として非常に有用である。ただ、今から作る場所・会社があるか疑問である。揚水機の設置が困難な場合、蓄電池も有用であるが、長い時間(6-8時間)使えないといけない。九州と本州または四国との間での新しい連系線建設が望まれる。
3.北海道における大停電時の再生可能エネルギー問題
2018年9月6日午前3時7分に、北海道にて震度7の地震が起こった。複数の発電機が連続して停止して停電が起こり、午前3:25に最終的に北海道が全停電となった。すべての再生可能エネルギーが、周波数が限界設定値(49-47Hz)に達した時に解列した。今回、再生可能エネルギーは、事故による停電時には有用でなく、復旧に時間がかかった。電源の位置的バランスが良くなかった。(2020年4月後の発送電分離後ではもっとそうなると考えられる)。
特記すべきことは、再生可能エネルギーの接続復帰に蓄電池が大きな役割を果たしたことである。北海道での教訓は以下の通りである。 再生可能エネルギーは周波数低下ですべて解列し、大停電時に役立たなかった。再生可能エネルギーの周波数リレーの設定値をより低くする必要がある。蓄電池が再生可能エネルギーの接続復帰に役立つ。
4.これからの問題
電力会社間連系線の増強でより多くの再生可能エネルギー導入が可能である。 現時点では、日本では、電力会社間の連系線の数とその容量が少ない (元来、主に緊急時の融通用に建設された)。
現在、以下の増強がなされている。北海道-東北間は1ルート(直流)→ 2ルートへ増強、東北-東京間は1ルート(交流) → 2ルートへ増強中、東京-中部間は直流120万kW → 210万kWへ増強、九州-中国間は1ルート(2回線) → 2ルート化への議論があったが 見送りに。
よく比較されるドイツとの違いは何であろうか? ドイツは7か国と国際連系線を持っていて、再エネに 対する周波数維持が容易である。日本は、国際連系線がないため周波数維持が難しい。
先日、スウェーデンの少女グレタさんが、地球温暖化防止のために早急にCO2を 削減しなければならないのに、皆、何をしているの?と訴えたが、これに解決策はあるのだろうか?実は、水力発電、再エネ発電、そして、原子力発電の負荷追随運転を可能にすれば、理論的には可能である。
世界的には、福島第1のような事故を起こさない小型炉の開発が進んでいる。再エネ100%でやっていくことは可能かと聞かれるが、前述の周波数維持の問題があるので現実的には無理である。 回転する発電機で周波数が保たれている。 回転する発電機をどれだけ削減できるかが、 現時点で世界的な問題として注目されている。再エネ大量導入で重要なことは、日本国民にとって、何が一番重要かをいつも考えることである。
以上