2023年連携セミナ―

 

 

電気学会・東京都立産業技術研究センター連携セミナー
テーマ「安全で省エネな社会の構築と中小企業支援」

日時 2023年12月6日(水)13時30分~18時50分
場所 東京都立産業技術研究センター東京イノベーションハブ

主催 (一社)電気学会
共催 (地独)東京都立産業技術研究センター
協賛  電気学会東京支部
後援 IEEJプロフェッショナル会          

挨拶:東京都立産業技術研究センター(小林丈士 物理応用技術部部長)

講演1:ゼロエミッションに資する産業支援事業の紹介
    -安全性・信頼性の向上と技術力の強化に向けて-
     中川善継(東京都立産業技術研究センター) 

講演2:鉄道の電力供給技術の最近の動向(電車線を中心に)
    池田 充(ジェイアール総研電気システム)

講演3:再エネ大量導入と電力安定供給の両立は如何に?
    岩本伸一(IEEJプロフェッショナル)

講演4:電気自動車の動向
    長瀬 博(IEEJプロフェッショナル)

意見交換会

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講演1:ゼロエミッションに資する産業支援事業の紹介
-安全性・信頼性の向上と技術力の強化に向けて-

東京都立産業技術研究センター

中川 善継

 1.モノづくり産業の集積地多摩と多摩テクノプラザ

 東京都郊外に位置する多摩地域は電子機械、計測器、制御装置等の中堅・中小企業のシステム開発拠点が多く点在し、都心部に比べ自動車交通が分散しやすいことから物流の拠点ともなっている。「東京の産業と雇用就業2022」によれば、中小製造業が進出したい新事業分野として環境・エネルギーが39.8%と最も高く、これから事業創出が大いに期待される。多摩テクノプラザは地理的にその中心に位置し、これらの開発を支援する拠点として電子技術、複合素材技術の面から中小企業の製品化、事業化に資する技術支援を行っている。

 

2.ゼロエミッションに資するモビリティ産業支援事業の取り組み

 多摩テクノプラザでは、電子機器から発する電磁ノイズの干渉を評価するEMC試験や、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)をはじめとした軽量部材の研究に取り組んできた。これらのノウハウを生かし、車載機器・小型モビリティに特化した技術支援として、2022年度に「ゼロエミッションに資するモビリティ産業支援事業」を立ち上げた。

 車載機器のEMC試験では、車体の中に製品が置かれた状態を想定し、CISPR・ISO等の国際規格に準拠した試験項目を準備した(図1参照)。また、CFRPなどの軽量化部材をモビリティ構成部品に用いるための機械強度の試験、部材の加工と評価のほか、オゾン劣化試験・塩水噴霧試験による寒冷地や海岸沿いなど自動車を走行する環境を再現した各種試験が可能である。これから車載機器や小型モビリティ分野への参入を検討している企業に対し、自動車業界の構造転換に対する技術・経営・人材養成セミナの開催や車載機器技術研究会を設置、活動を通して技術支援事業の役割を充実させる予定である。

 

 図1. 新規導入した車載試験設備の紹介

 

3. ZEV(ゼロエミッション・ビークル)移行に向けた技術支援

 気候変動は地球規模の脅威であり、その対策としてCO2をはじめとする温室効果ガスの抑制が求められている。東京都では、2007年に策定した「カーボンマイナス東京10年プロジェクト」の基本方針の一つとして、自動車交通でのCO2削減を加速してきた。また、2050年にCO2排出実質ゼロとする「ゼロエミッション東京」を2019年に宣言した。自動車交通におけるCO2削減の要となるのがガソリン車からZEVへの移行と普及であるが、バッテリー等の電力源を搭載する反面、自動車としてのパフォーマンスを保つための軽量化が必要である。今後、ZEVによる自動車の電動化と車体部品の軽量化に両輪で取り組むことで環境負荷の軽減が期待できる。

以上

 

講演2:鉄道の電力供給技術の最近の動向(電車線を中心に)

(株)ジェイアール総研電気システム

池田 充

1. 電気鉄道の歴史とその特徴
 鉄道の動力源は、人や馬を起源とする。19世紀初頭、英国において蒸気機関を動力とする鉄道が誕生すると、大量輸送機関として鉄道は世界中に急速に広まっていった。

 電動機の発明はこれよりやや遅く1830年頃である。電気を動力源とする電気鉄道の実用化には、さらに50年の歳月を要した。これは、エネルギー源である電力を車両にどのように供給するのか、その実現に対する試行錯誤に要した年月でもあった。

 そして1890年頃、「線路に沿って電車線を架設し、これを車両に搭載した集電装置が連続的にすべらせながら動かす摺動(しゅうどう)をして電気回路を構成し、電動機を駆動させる」という現在主流の電気供給システムの基本構成が、実用化された(図1)。この電気供給システムにより、電車や電気機関車である電気車のエネルギー源である蓄電池や発電装置の搭載が不要となり、安価・軽量・簡素で信頼性の高い車両による運転が実現した。
 鉄道沿線に電力供給のためのインフラ設備である変電所と電車線を敷設する必要があるため、電気鉄道はまず「都市鉄道」として発展した。その後、電気鉄道の利点が広く認識されるにつれ、蒸気機関車で運転されていた「都市間鉄道」においても電化が進められていくこととなった。

2. カーボンニュートラルにおける電気鉄道の役割
 現在、カーボンニュートラルの重要性・緊急性が広く認識され、様々な施策が国を超えて進められている。

 日本国内のCO2排出量のうち約2割が運輸部門からの排出であるが、その約85%は自動車によるものであり、鉄道起源のCO2排出量は6%程度である(図2)。しかも、鉄道起源のCO2排出量の約95%は電気鉄道のための発電によるもので、ディーゼルエンジンなどの気動車等に代表される鉄道事業者によるCO2直接排出量は日本全体のCO2排出量の0.05%にも満たない。

 すなわち、今後、国内で再生可能エネルギー起源の電力の割合が増加すれば、鉄道起源のCO2排出量はこれにほぼ反比例して減少することとなる。

 このように、電気鉄道はカーボンニュートラルを推進するテコとなり得るものである。特に欧州では、カーボンニュートラル推進策のひとつとして、「鉄道を中心とする包括的交通インフラを整備する欧州横断輸送ネットワークTEN-T(Trans-European Transport Network))と「鉄道サービスの単一市場化である第4次鉄道パッケージ」による鉄道の競争力強化施策が進められている。

 一方、自動車については世界中で電動化が推進されており、乗用車に関してはすでにBEVが実用化されている。しかしながら、トラックやバスなどの大型車両は、走行に必要なエネルギー量自体が大きいことから、単純なBEVでは蓄電池重量が大きくなりすぎて、種々の問題が生じている。その解決法として、走行中給電による蓄電池搭載量削減が期待されている。例えば、電気鉄道で培った技術を活かし、高速道路に架空電車線(架線)を架設しトラックが搭載したパンタグラフにより集電する「独国シーメンス社の大型トラック架線システム(eHighway)実証プロジェクト」がある。

 逆に鉄道の非電化路線では、JR東日本のACCUMなどの蓄電池駆動電車の導入も進められている。

 このように、同じ電気を動力源とする輸送システムである電気鉄道と電気自動車とは、今後技術的な類似点が増えていく可能性がある。例えば、再生可能エネルギー電力の不安定性を補うためにBEVの蓄電能力を電力インフラとして活用するV2G(Vehicle-to-Grid)が提案されている。さらに、大型需要家である電気鉄道においても、再生可能エネルギー電力の発電状況にあわせた電力マネジメントが実現できれば、再生可能エネルギー電力の導入拡大に貢献できる。

 また、列車が電力回生ブレーキにより発電した電力を他の列車が有効利用できない場合に、変電所等へ大型蓄電池による電力貯蔵装置を設置する事例が近年増えている。このように再生可能エネルギーの有効利用するための研究が進 められている(図3)。 


3. コロナ禍に於ける電気鉄道の変化
 2019年末に始まったコロナ禍は2023年になりようやく沈静化してきた。

 コロナ禍によって一層顕在化した鉄道経営の根本的な問題、すなわち、鉄道事業は巨大なインフラ産業であり、その維持管理に見合った収入と人的リソースが確保できないと事業として成り立たないという問題である。これは、加速する人口減少が進む中で、他の産業も含め深刻な共通問題である。特に、沿線にわたり長大な電車線路や多数の電力供給設備を配する電気鉄道では、電力設備のITC技術によるスマート化とメンテナンスの省力化・省人化・低コスト化が喫緊の課題である。

 そこで、画像処理やAIなどを活用した電車線設備の検測技術、さらにはこれと各種シミュレーションを組み合わせた電車線設備のデジタルツインを構築し、予防保全や積極保全であるプロアクティブ保全を実現して、設備メンテナンスの低コスト化をはかることが期待されている(図4)。

 

 さらに、リスク分析、ライフサイクルコスト(LCC)分析に基づいた保全計画によりリスクとライフサイクルコストの最小化を図るアセットマネジメントの実現も不可欠である。そのためには、計測技術、シミュレーション技術を高度化するとともに、設備の腐食、電食、摩耗、疲労などの長期劣化に関する知見を深め、劣化現象を定量化することが重要であり、継続的な研究開発が進められている。 

4. まとめ
 2030年のCO2排出量半減(2000年比)、2050年のCO2排出量実質ゼロを実現に向け、特にエネルギー供給の面で社会の仕組みがさらに大きく変化していくものと思われる。これと同時に日本では急速な人口減が進むと予想されていることから、現有する社会インフラを適切に維持管理することも大きな課題である。

 従って電気鉄道においても、将来にわたって社会の基盤インフラとしての役割を担い続けていくためには「エネルギーマネジメント」と「アセットマネジメント」を両輪とした設備マネジメントが重要になる(図5)。

 

 さらに、年々顕在化する気候温暖化の進行を少しでも早い時期に止めるためには、CO2削減のためにできることを少しでも早く実行フェーズに移すことである。

 省エネルギー技術に関して、日本の電気鉄道は海外諸国に対してまだアドバンテージがあると考えられる。一方、欧州では鉄道のカーボンニュートラルに向けた各種取り組みや施策が、非常に速いピッチで進められている。

 日本の電気鉄道が引き続き世界に伍していくためには、柔軟かつ大胆な施策や技術導入をためらいなく実行するマインドが重要である。

以上

 

 

 講演3:再生可能エネルギー大量導入と電力安定供給の両立は如何に?

IEEJプロフェッショナル 岩本伸一

 日本は、2050年までに温暖化ガス排出量を、実質ゼロすなわちカーボンニュートラルにという政府目標を掲げた。その中で、2030年度の再生可能エネルギーの目標率は35-38%、原子力は20-22%、合計ノンカーボン電源を59%に、そして2050年までに、再生可能エネルギー50-60%、原子力/CCUS火力30-40%、水素アンモニア発電10%を目標とした。CCUS(Carbon Capture, Usage and Storage)は、排出される高濃度のCO₂を固定化する技術である。

 これに対して多くのネガティブな意見が出た。「電気料金が2倍になってしまうのではないか?実現が見通せない」、「2020年の発送電分離で、今までの電力会社の電力供給責任はなくなったので電力供給は大丈夫か」、「原子力発電の再稼働・増設をすべき」など。

 電力系統には、需給バランスをとって周波数を一定にしなければならない物理的制約がある。その周波数偏差目標は、本州では0.2Hzで、北海道と沖縄では0.3Hzである。この周波数維持のために、再生可能エネルギー導入量が抑制されている。周波数が下がりすぎると、保護リレー装置UFRが働き、ブレーカーである遮断器が作動して、強制的に停電が発生する。再生可能エネルギー大量導入のため、政府は、再生可能エネルギーの優先給電を決めた。すなわち、出力抑制の順位は、まず、火力発電と揚水発電、次に再生可能エネルギー、最後に原子力発電とした。

 再生可能エネルギーを増やすには、エリア間(電力会社間)の連系線の増強が有効である。そのため、現在、北海道-東北間、東北-東京間、東京-中部間で連系線が増強されている。また、日本版コネクトマネージとして、ノンファーム型接続が始まっている。ノンファーム型接続とは、あらかじめ系統の容量を確保せず、系統の容量に空きがある時にそれを活用し、再生可能エネルギーをつなぐ方法である。再生可能エネルギーに関する政策として、地域間連系線の増強、定置用蓄電池の導入加速、容量市場の導入、長期脱炭素電源オークションの開始、予備電源の設置などが考えられている。また、デマンドレスポンスの拡大もはかられている。太陽光発電や洋上風力発電のエネルギーミックスの目標が設定され、推進されている。再生可能エネルギーに関するFIT制度の買取価格を改善するためFIP制度が始まっている。

 原子力政策の進め方も提案されている。燃料費だけ見た場合、1kWh当たりのコストは、原子力1.5円、石炭5.1円、LNG10.0円であり、原子力の経済的な優位性がある。実際、CO2を削減するには、原子力を負荷追従運転すれば、電源運用の自由度に効果があると考えられる。海外では、原子力増設や、小型原子炉SMRの開発が加速している。

 「再生可能エネルギー100%で運用することは可能か」とよく訊かれるが、周波数維持と言う本質的な問題があり無理である。それは、同期発電機の回転する慣性で周波数が一定に保たれているからである。

 結論として、再生可能エネルギー大量導入は、経産省の方針通りに行けば、2030年の目標達成は困難ではない。太陽電池や風力発電が国産でないので、これが日本人のため、または日本国のためになるのかは不明である。電力供給的には、これまでの容量市場に加えて、長期脱炭素電源や予備電源を加えていけば大丈夫であろう。ただ、それだけだと、「休止電源の準備で電力自由化前と総電源量は変わらなくなる」のではと思う。

以上

 

講演4:電気自動車の動向

IEEJプロフェッショナル 長瀬 博

 カーボンニュートラルの実現に向けて、電気自動車(EV:Electric Vehicle)が着目されている。EVに関する最近の動向を紹介した。

1.電動化の推進

 自動車が置かれている状況にCASE(Connected、Autonomous、Sharing service、Electric)の進展がある。電動化はこの中の一つとして考えるべきである。世界の電動化の状況は、欧米での2030年代のエンジン車の新車販売禁止がある。最近のトピックスとして、英国がエンジン車の禁止を5年延期させたり、欧州で再エネ由来の水素で作る合成燃料e-fuelを認める動きがある。日本の電動化はグリーン成長戦略の中で取りあげられ、その目標が設定されている。こうした取り組みから、2035年には世界の新車の約半数が電動化されると予測されている。

 電動化により、従来にない新しいプレイヤーが登場している。EVでは、テスラ(米)、BYD(中)がその一例であり、シェアも高い。2022年は全世界で、EV724万台、HEV(Hybrid EV)353万台、PHEV(Plug-in HEV)273万台、MHEV(Mild HEV)207万台が販売された。

2.電気自動車を取り巻く環境

 環境の点から、走行中のCO2排出に加え、その燃料(ガソリンや電力)製造時の排出も加味したWell to Wheelの評価が必要である。ガソリン車に比べHEVのCO2排出量は半減する。EVのCO2排出は、充電する電源がCO2排出の少ない発電構成か否かにより異なる。CO2排出の少ない電源(原子力や水力)の割合の高い仏や北欧では圧倒的に少ないが、多くの欧米諸国では、EVの排出量はHEVの6~7割程度になる。一方、石炭火力の多い電源国では、EVのCO2排出量はHEVより多い。さらに、環境貢献を突き詰めると、LCA(Life Cycle Assessment)の評価が重要で、電池製造時を考慮するとEVは必ずしも有利ではない。xEV(EV、HEV、PHEV等の総称)の進展で、電池等の製造に必要なNd、Li、Coなどの資源ひっ迫がある。

 EVの電池は大きく重いため、軽量化して燃費向上を目指してきた自動車の設計思想に反する。また、資源問題に加え、充電時間(ガソリンの給油は数分)や充電ステーションなどのインフラ整備の課題もある。

3.最近の電気自動車技術

 モータ駆動は、エンジン駆動に比べ、圧倒的に高効率、高精度、高応答という特徴があり、SUV(Sport Utility Vehicle)などスポーティな車に向く。駆動モータは高速になるに従い、磁束を弱め、最大トルクを低減する特性が要求される。EV用モータやインバータの小型化が著しく進展している。乗用車の電池は、多数のセルを組み合わせて床下実装になる。これらのセルの状態を監視する電池管理(Battery Management System)と電池温度を適正に制御するシステムが重要である。

 EVの駆動は、モータと減速ギヤを一体化したe-axleを利用する。さらに、e-axleはインバータ、DC/DCコンバータ、充電器などとの統合も進んでいる。モータは高効率で小型な永久磁石同期モータが主流であるが、巻線型同期モータや、誘導モータの利用もある。また、インホイール型の実用化も検討されている。

4.電気自動車への充電

 電池への充電はコネクタ接続が主流である。非接触型、電池交換式も検討されている。コネクタ式は100/200V電源で充電する普通充電と400Vあるいはそれ以上の電源を利用する急速充電がある。急速充電のコネクタは地域(米、欧、中、日)により規格や形状が異なるが、どれも大容量化が進展している。

EVにコネクタを接続する手間を軽減するため、非接触型(ワイヤレス充電)が検討され、規格もできている。今後は、ワイヤレスが主流になるという予測もある。また、充電時間を軽減するため、商用車などで電池交換式も試行されている。電動バイクでは交換式が普及している。

5.走行給電の実験検討

 コネクタ充電でも、ワイヤレス充電でも、大容量で重い電池を搭載して走行するという本質的な課題がある。走行給電はチョコチョコ充電ができるので、電池容量が下げられる。パンタ式、側面ローラ式、非接触式などが検討されている。このうち、路上に地上給電器を設置する非接触式は、タイヤ近くまたはタイヤ内に車上給電器を装着する。車はある割合で赤信号停止するので、路上設備は主要交差点付近だけの設置で十分で、これにより電池容量は1/10程度にできるという試算がある。また、電池容量を下げたために浮いた電池代で、その設置費用は十分に賄える試算もある。実用化に向け、非接触給電そのものの試験だけでなく、道路工事方法なども実験検討されている。

以上

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2022年連携セミナ―

 

 

電気学会・東京都立産業技術研究センター連携セミナー
テーマ「安全で省エネな社会の構築と中小企業支援」

日時 2022年12月9日(金)13時30分~17時10分
場所 東京都立産業技術研究センター東京イノベーションハブ

主催 (一社)電気学会
共催 (地独)東京都立産業技術研究センター
協賛  電気学会東京支部
後援 IEEJプロフェッショナル会          

講演1:新産業創出に向けた中小企業の5G普及促進支援
   (金田泰昌)東京都立産業技術研究センター  

講演2:太陽光発電の活用と電力安定供給
   (白川晋吾)IEEJプロフェッショナル

講演3:電気鉄道システムにおける国内外接地方式の比較
   (兎束哲夫)日本工営株式会社

講演4:パワーエレクトロニクスの広がり
   (森本雅之)IEEJプロフェッショナル

 

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新産業創出に向けた中小企業の5G普及促進支援

東京都立産業技術研究センター

金田 泰昌

1. ローカル5G

4Gまでの移動体通信技術は人と人とのコミュニケーションツールとして主に高速化に焦点が当てられてきた。対して5Gは、IoTの基盤ツールとして、「超高速通信」に加え「超高信頼・低遅延通信」、「多数同時接続」の特長を持ち、利用シーンに応じたネットワーク構築が可能なシステムである。

ローカル5Gとは、企業や自治体等、携帯電話事業者以外の様々な主体が構築可能な自営の5Gシステムである。携帯電話事業者が提供する5Gサービスとは別に、自らの土地や建物内でスポット的に、自らのニーズに合わせて柔軟にネットワークを構築することができる特徴を持つ。ローカル5Gの周波数帯は4.6-4.9GHz帯(sub6帯)と28.2-29.1GHz帯(ミリ波帯)の2つであり、28.2-28.3GHz帯について先行して2019年12月に制度整備が行われ、残りの帯域が2020年12月に制度整備されている。

2.         中小企業の5G・IoT・ロボット普及促進事業

 東京都立産業技術研究センター(都産技研)では、2015年にロボット産業活性化事業を、2017年にIoT化支援事業を開始し、サービスロボットの社会実装やIoT化をとおした企業のビジネス化支援を行ってきた。これまでに培ったシーズに5Gを掛け合わせ、5Gをはじめとした最先端技術を活用し東京の産業力を強化する目的で、2020年4月より中小企業の5G・IoT・ロボット普及促進事業を開始した。そして、2020年11月、3つの技術分野の支援を総合的に推進するためにDX推進センターを開設した。


図1: ローカル5Gテストベッド概要
3. DX推進センターの取組事例

3.1. 5G関連設備利用サービス

 図1にローカル5Gテストベッドの概要を示す。都産技研では3か所の実証試験エリアに、sub6とミリ波のローカル5G基地局を設置し、ユースケースの実証試験ができる環境を提供している。加えて、端末等の5G用ハードウェア開発支援として、電波暗室やコンパクトアンテナテストレンジ、各種測定器やシミュレーション環境を整備し、性能測定や定量  

評価等が行える環境も提供している。
     
                 図1:ローカル5Gテストベッド概要                  

3.2. 公募型共同研究 

 公募型共同研究は都産技研が中小企業者に対して委託して実施する共同研究である。必要経費を都産技研が委託費として負担することで、ローカル5G等の分野への新規事業参入や競争力向上を支援することを目的としている。2022年12月までに15テーマを実施しており、ローカル5Gとサービスロボットを掛け合わせたテーマや、ローカル5G基地局の開発等を行っている。

3.3. ローカル5G研究会

都産技研ではローカル5G研究会を設立し、ローカル5Gの利活用の促進や技術交流をとおして産業の活性化を図っている。特に、会員向けに都産技研が保有する5G関連設備を体験利用できる制度を用意し、ローカル5Gの利活用の推進を加速させている。

 

 

太陽光発電の活用と電力安定供給

白川晋吾(IEEJ プロフェショナル)


 電力・エネルギーを巡る環境は2011 年3 月11 日14:46 M9 東北太平洋側沖4 地域連動型大地震・大津波15.7mによる2011 東日本大震災・福島第一原発事故、2020 年10 月16 日の国会での首相所信表明「2050 年の温暖化ガス排出実質ゼロ」、北京オリンピック2022 終了後突如2022 年2 月24 日のロシアのウクライナ侵攻等により激変している。太陽光発電は電力・エネルギー源の分散電源として大量導入され、火力発電の統廃合新設・カ―ボンニュ―トラル、新規制基準による原発再稼働、脱炭素化GX(グリ-ントランスフォ―メ-ション)等が進行している。このような背景のもとで、本講演では太陽光発電の活用・電力需要・電力安定供給に関して、解決済みの課題でなく今後変化していく課題という捉え方の中で下記の内容について述べている。


1. 太陽光発電に関する課題・現状
・日本の太陽光発電の導入量は?・太陽光発電の設置場所は?・配電線への接続は?・配電線への逆潮流は?・水害・火災時になぜ注意が必要なのか?・出力制御はなぜ?・疑似慣性機能インバータ?・配電線への蓄電池の適用は?・マイクログリッド化は?・家庭用蓄電池?・給湯器エコキュート?・ソーラーカーポート?・自動車用電池?・パネルと廃棄物問題?・保守管理・規格?・蓄電池変電所?・火力発電? ・COP27・COP26?・日本の電源比率推移?・固定価格買取価格? ・再エネ賦課金?・電気料金?・電力10社の2022 年上期収支?


2. 太陽光発電の発電出力変化と電力需用と調整力電源(2022 年での具体例)
①東京エリア冷たい雨や雪の日、真冬のような寒い日、「電力需給ひっ迫警報」2022 年3 月22 日⇒警報解除3 月23 日
 3 月22 日⇒ 3 月23 日
 太陽光発電 1760MW ⇒ 11410MW at 12:00〜13:00
 電力需要 45150MW ⇒ 40750MW at 12:00〜13:00
 調整力電源 43390MW ⇒ 29340MW at 12:00〜13:00
②東京エリア春季快晴日2022 年5 月5 日の太陽光発電出力値14040MW at 12:00〜13:00(1100MW 原発換算約1.5 基分)
③東京エリア早い梅雨明け、想定外猛暑時の「電力需給ひっ迫注意報」 2022 年6 月29 日電力需要51190MW・太陽光発電13500MW at 12:00〜13:00、日没時調整力電源46340MW at18:00
④東京エリア猛暑日の電力需要増59420MW at 13:55、太陽光発電10520MW at 13:55 2022 年8 月2 日日没時調整力電源53220MW at 18:00


3. 電力エリア西日本・中部日本60Hz と東日本50Hz 間の電力融通と安定供給
・大雪による太陽光出力減時の電力エリア間の電力融通例
・太陽光出力低減時および日没時調整力電源の必要性
・スペインでみる再エネ(風力と火力による相互増減調整)と原発(ベース出力電源)
・福島県沖2022 年2 月、3 月地震時の首都圏での遠隔地主要電源(火力・原子力電源)確保の必要性
・日本機械学会「第26 回動力・エネルギーシンポジウム佐賀」における原子力技術
・電力・エネルギーを巡る他国の動向
・日本の原発動向


備考:講演内容は2022 年12 月9 日当日配布の電気学会小冊子「東京都立産業技術研究センター・電気学会連携事業安全で省エネな社会の構築と中小企業支援」(太陽光発電の活用と電力安定供給)参照。

 

 

 電気鉄道システムにおける国内外接地方式の比較

日本工営株式会社鉄道事業部 兎束哲夫

1.はじめに
 首都圏等の通勤電車の多くは架線
直流1500Vを供給する直流き電方式、新幹線は架線に交流25000Vを供給する交流き電方式の電気鉄道である。どちらも一本の架線からパンタグラフを介して車両が電力を取り込んで消費し、帰線として大地に敷設されたレールを用いている(図-1)。

 本講演では、レールの接地・非接地を中心として、国内外の電気鉄道システムを比較した。          図-1 発電所から電気車までの電気の流れ

 

2.レール電位とは
 レールには電気抵抗があるため、帰線電流通過に伴ってレール・大地間に電位差、すなわちレール電位が発生する。レールとまくらぎとは樹脂等で絶縁されているが、まくらぎの本数が多くかつ雨・雪等で絶縁が低下するために、レールを通る電流の一部は大地に漏れ出し、その際レール電位は低下する。車両位置のレール電位が最も高く、変電所では最もレール電位が低い分布を示す。

3.直流き電方式:電食とレール電位
 直流き電方式では、車両付近のレール電位が高い位置において、レールから大地に対して直流電流が漏れ出す。この漏れ電流は、土壌だけでなく周囲に埋設された上下水道管・ガス管等を経由して変電所付近に伝播する。そして、変電所付近ではレール電位が低いため、周辺土壌および埋設管類からレールに電流が吸い上がって変電所に吸収される(図-2)。
 レールから大地に電流が漏れ出す際、また変電所周辺の管類から電流が吸い上がる際には、レール又は管類に電気分解現象が発生して腐食する。これを電食と呼ぶ。変電所周辺の管類を電食から守るために、日本では鉄道事業者とライフライン関係者とが協議して、流電陽極法や排流法といった対策が施され安全を維持している。レールの電食は、鉄道事業者が自分で管理している。  
 海外においても、直流き電方式区間     図-2 漏れ電流と電食の発生
では電食対策としてレールは大地からの絶縁を基本としている。一方、海外では乗客保護の観点から、レール電位を常に測定して上昇時にレールを大地に接地するスイッチを設けた線区がある(レール電位制限装置)。この場合、いったん投入したレール接地スイッチをいつ開放するかに技術的課題が残る。

4.交流き電方式:海外のレール接地
 新幹線をはじめとする日本の交流き電方式の電気鉄道では直流き電方式との並行区間が多く、電食の懸念がある、レールからの漏れ電流が誘導障害を生じる等の理由により、1950年代の開発及び営業当初からレールを非接地としている。
 これに対して海外の交流き電方式では、乗客及び作業者がレールに触った際の危険を最小化する見地からレール接地を基本としており、レールを架線柱および高架橋やトンネルの鉄筋とも接地して電位上昇を防いでいる。

(1) 国内の状況
 1950年代に交流き電方式の試験が行われた仙山線では、当初から直流き電方式との相互直通を前提とした回路構成で検討され、レールは非接地とした。1964年に交流き電方式で開業した東海道新幹線は、故障電流が大きくなることから、変電所等で10km間隔にレールを接地した。しかし、並行する直流き電方式在来線による電食で接地線が溶ける被害が生じたことから、変電所等でのレール直接接地はやめ、地絡故障時等のみ接地する放電器接地に改善されて現在に至っている2)
 駅部ではホームが大地電位、車両がレール電位なので乗降客にはレール電位が印加されてしまう。そこで、コンデンサを用いて直流を遮断しながらレールと駅舎構体とを接続するRPCD(Rail Potential Control Device:レール電位抑制装置)を用いて、定常的なレール電位上昇による乗客の障害を防いでいる。
 このように、日本の交流電気鉄道ではレール非接地を前提として設計されている。営業時間帯には最大で500V程度までレール電位が高くなるが、法律により立ち入り制限を行い、乗客及び作業者がレールに触ることはない前提であり、危険は発生しない。

(2) 海外の状況
 欧州では欧州連合EUの指針に従って、1996年以降は鉄道の相互運用性技術標準TSI (Technical Specification for Interoperability)に従って鉄道が建設されている。TSIでは作業者と乗客の安全性の見地から、電位抑制を目的とし交流電気鉄道のレール接地を原則とするよう、欧州規格EN50122-1で規定している。
 欧州の交流き電方式では図-3のようにレールと架空帰線及び電化柱の接続が一般的であり、トンネル鉄筋や高架橋鉄筋・橋梁鉄筋とレール及び接地線を接続して徹底的にレール電位を抑制している。
 欧州規格EN 50122-1は国際電気規格 IEC62128-1「電気的安全性及び接地に関する保護規定」の原型となった。そこで国際規格の審議過程で、人体がレールに触らない条件においては高いレール電位を許容するように日本から主張し、その記述を組み込んで発行された1)
                     図-3 欧州の交流・直流き電回路接地系構成

(3) 台湾高速鉄道での和洋折衷
 2007年に開業した台湾高速鉄道では日本式の信号軌道回路を前提としつつ、建設仕様で規定されたEN50122-1(当時)に準拠したレール電位低減とレール破断検知の両立が求められた。そこで、帰線回路としてはトンネル・高架橋・スラブ・電化柱等の鉄筋を欧州式にすべて接続し、起点から終点に至る電気回路を構築した。そして、日本式信号軌道回路への影響を考慮して、3km程度の間隔でATき電回路のCPW点において、インピーダンス     図-4 台湾高速鉄道の接地方式の概念
ボンドの中性点を介してレール接地を施した(図-4)。

(4) 交流と直流の共存
 交流電気鉄道と直流電気鉄道の共存に際しては、欧州においても電食対策や信号周波数の干渉、事故時の交直混触等の課題がある。そのため交直の問題を対象にしたEN 50122-3「直流き電と交流き電の相互干渉」が2010年に発行された。EN 50122-3は改訂されて2013年にIEC 62128-3として発行された。

4.まとめ
 電気鉄道システムではレールを帰線として用いるため、直流き電方式では電食、交流き電方式では乗客安全を常に考慮しなければならない。各国それぞれが歴史的経緯を持つ中で、日本では直流き電方式と交流き電方式の混在を前提としてレール非接地を基本としている。欧州では、交流き電方式ではレール接地、直流き電方式ではレール非接地が基本である。
 海外鉄道プロジェクトでは国内外の主張が激突する場面もあり、日本の鉄道技術者としては両方式の得失を良く把握する必要がある。

〔参考文献〕
1) 兎束哲夫:「海外の変電設備」、JREA、Vol.27、No.2 (2017)
2) 電気学会内外の高速鉄道技術の相違と特徴に関する調査専門委員会: “国内外における高速鉄道技術”、 電気学会技術報告第1303号 (2014)
3) 藤田浩由他:「海外高速鉄道と国内整備新幹線における接地方式の構成比較」、電気学会研究会資料TER-17-039(2017)

 

パワーエレクトロニクスの広がり

森本雅之
IEEJプロフェッショナル
モリモトラボ(元東海大学)

1. モータの進化
 我が国の発電電力の半分以上は最終的にモータが消費している.モータは100年以上前から広く使われているが,着々と進歩してきている.ところが,20世紀末に「進化」と呼ぶべき変貌を遂げ,モータの用途が広がってきた.
 モータの進化の原因は「ネオジム磁石の実用化」,「コンピュータの進歩」,「パワーエレクトロニクス」である.モータの進化によって20世紀にはなかったモノが次々に実用化されている.例えば,ダイレクトドライブモータにより機械室が不要なエレベータが実現し,地下1階から地下2階へのエレベータが可能になったなど数多くの例がある.


2. パワーエレクトロニクスの広がり
 パワーエレクトロニクスは従来「電力変換」と呼ばれてきた.電力変換とは電力の形態を変更することであるが,現在のパワーエレクトロニクスは単なる電力変換ではなく,電気エネルギを利用するためのエネルギ制御の技術として発展している.
 例えば,家庭内の例では,白物家電はインバータで制御されている.エアコン,冷蔵庫は温度変動が小さくなり,省エネ,静音化した.薄型モータをダイレクトドライブすることにより家庭用のドラム式洗濯機が実現した.LED照明,IH炊飯器,充電器など,いまやパワーエレクトロニクスがなければ我々の日々の生活は成り立たなくなっている.
 乗り物の分野では,電車にはインバータ駆動の交流電動機が使われており,電車に乗ることが,すなわちパワーエレクトロニクスを利用することである.船舶でも電気推進船が増加し,さらに,2040年頃を目指して電動航空機の研究開発が世界的に進められている.
 ハイブリッド自動車,電気自動車は言うに及ばず,エンジン車でもパワーエレクトロニクスで制御されたモータが数多く搭載されている.また,エレベータはインバータにより加加速度制御されており,乗り心地に違和感がまったくなくなっている.
 ガス,水道でもポンプ,コンプレッサはインバータ制御されており,パワーエレクトロニクスは社会全体の省エネルギ大きく貢献している.


3. パワーエレクトロニクスの難しさ
 パワーエレクトロニクスの実用のための技術を一言で言うと,理想スイッチによる理論を現実のパワーデバイスで実現することである.そのために必要なことは,実用技術と経験である.
 しかし,現在の学校教育では,限られた時間での教育のため,理論を中心に浅く広く教授することしかできない.学校教育のレベルと社会で必要とするモノヅクリの技術レベルに乖離が生じている.今後の技術の発展を考えるとパワーエレクトロニクスはますます広がってゆくと思われる.そのためには社会人教育のしくみが必要である.それは,IEEJプロフェッショナルがやるべきことのひとつではないかとも考えている.

以上

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2020年連携セミナー

 

電気学会・東京都立産業技術研究センター連携セミナー
テーマ「安全で省エネな社会の構築と中小企業支援」

日時 2019年12月3日(木)13時30分~17時10分
場所 東京都立産業技術研究センター東京イノベーションハブ

主催 (一社)電気学会
共催 (地独)東京都立産業技術研究センター
協賛  電気学会東京支部
後援 IEEJプロフェッショナル会          

講演1:広域首都圏輸出製品技術支援センター(MTEP)の事業紹介と支援事例
   (浦崎香織里)東京都立産業技術研究センター

講演2:鉄道における通信システムの最近の技術動向
   (川崎邦弘)鉄道総合技術研究所

講演3:レジリエントな電力供給システム
   (奈良宏一)IEEJプロフェッショナル

講演4:日本の再生可能エネルギー大量導入と最近の出来事
   (岩本伸一)IEEJプロフェッショナル

 

 

 

 

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