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楕円関数、変分原理及び微分・位相幾何の電力ケーブル問題への応用

楕円関数、変分原理及び微分・位相幾何の電力ケーブル問題への応用
~方法の転換:計算の代わりに思考する~ 
                            
2021年2月25日
IEEJプロフェッショナル
渡辺和夫
1.はじめに
 最近の電磁界解析の分野では、コンピュータによる数値計算技術の進展が目覚ましく、猫も杓子も数値計算に頼ろうとする向きがある。しかし、この得られた数値の妥当性を見極めるには、計算のもとになっている電気磁気現象そのものについて考えを進める習慣を養うことが大切である。すなわち、計算対象をモデル化して、その現象の原理に基づいて試算して、概算値や上下界値を推定することが必要である。その有力な手法の一つとして、等角写像による静電界・静磁界解析がある。また、変分原理による抵抗値や静電容量の上下界計算法などがある。そのいくつかの例を紹介した。

2.楕円関数の応用例
 まず、任意形状の二次元抵抗値あるいは静電容量値の等角写像による計算方法を述べた。任意形状の単連結抵抗領域あるいは誘電体領域の周辺に任意の二つの電極が取り付けられた場合の電極間抵抗値(容量値)は、逐次写像により最終的に長方形領域に写像され、対向する平行電極間抵抗値(容量値)となる。この写像過程で重要となる写像関数が第一種楕円積分とその逆関数であるJacobiの楕円関数である。次にその応用例として、交流超電導ケーブルの導体フォーマと断熱管の渦電流損失計算式の導出例を紹介した。

3.簡略化された変分原理の応用例
 まず、変分法の一応用例として、二次元抵抗領域あるいは誘電体領域の二電極間抵抗値あるいは静電容量値の近似計算法として上界および下界を求める方法(1)を説明した。次に、その応用例として、長方形領域での静電容量の試算例を示した。さらに、電力ケーブルの矩形トラフの熱抵抗計算式への応用例を紹介した。

4.微分・位相幾何学的考え方の応用例
 微分・位相幾何学的考え方を用いた電力ケーブル半導電層の抵抗率を求める測定方法の理論を概説した。これは、「曲面に沿う電流の流れは平面上の微分同相領域に写像して考えて良い」(2)との考えに基づくものである。 さらに、薄肉円筒状抵抗体の二電極間抵抗値の計算法に拡張されることを示した。

5.アフィン写像と楕円関数の応用例
 前章までは、暗黙の内に抵抗率や誘電率の等方性を前提としていたが、本章ではその異方性の場合の取り扱いを紹介した。ある種の条件を満足する関数により異方性領域をアフィン写像すると、それは等方性領域に変換でき、その変換によって電位とエネルギーは不変であるので抵抗値や静電容量値は等方化された領域から正確に得られることが示されている(3)。
 電力ケーブル半導電層は、長さ方向、円周方向および厚さ方向で異なる抵抗率を有する。その表面上にスパイラルにまかれた銅ワイヤー間の抵抗値の計算例を紹介した。アフィン写像により等方性領域に写像してから、前章までの方法で求めるものである。

6.今後の展開
 1)楕円関数と等角写像のDirichlet and Neumann の問題への活用例がまだまだあるだろう。
2)等角写像を併用した変分法に上下界計算を活用できるケースがあるだろう。
 3)各種関数のリーマン面を曲面薄膜抵抗体とみなして考えることで新しい展開はないだろうか。
 4)異方性領域の等方化写像理論の応用として、異方性の主軸と対象とする主軸が一致しない場合の円筒状異方性抵抗体の等方化写像法を求める。

7.まとめ
リーマンの根本的原理 「証明は計算ではなく単に思考によって片付けるべきである」、すなわち 「計算の代わりに思考する」 という証明の方法の根本的改革が1897年のヒルベルトの著 「数論報告」 の中で明確に言及されている(4)。 現在のコンピュータによる数値計算(ブラックボックス化)の主流の中でこの思想があらためて再認識されてこよう。その意味で、本報告で紹介した方法は問題の計算過程を単なる数式の変形あるいは数値処理としてとらえるのではなく、幾何学的(図形的)プロセスを経て解いていくもので、「計算の代わりに思考する」 を継承したものである。 
今後広く活用されることを期待したい。

8.謝辞
 本報告は筆者が元茨城大学 寺門龍一教授(現,名誉教授)に興味深く教えていただいた「電磁気学特論」を基盤としています。さらに、「変分原理の応用」と「異方性領域の等方化写像理論」についての先生の論文も活用させていただいております。ここに付記して、同先生に深く感謝いたします。

9.参考文献
(1)茨城大学工学部研究集報1968年
(2)荒又光夫,寺門龍一:「等角写像の原理によって面抵抗率を求める新しい理論」,電学論,Vol.87-10 No.949(1967)
(3)柴田、皆川、寺門:「長方形異方性領域の対辺電極間の正確な抵抗値」、茨城工業高等専門学校研究報告、第16号,p131,(昭55)
(4)山本敦之訳:リーマン:人と業績, p.354,(1998)