シニアエンジニアから一言 - 技術継承問題の経験から
長瀬 博(IEEJプロフェッショナル)
1. まえがき
若い技術者にとって,壁とは何であろうか。個人的な壁では,多くの場合,初めての経験なので
・この仕事は期限までに仕上がるだろうか。
・どうアプローチしてよいか分からない。
・具体的な技術にうとい。
などの不安ではないかと思われる。
2. 壁とは何か
日々の仕事の中で,個人的な悩みは,
・何が課題なのかわからない。
・課題は分かったが,進め方や技術が分からない。
・解決策は調べたが,分からない。
などがあると思われ,悩みを整理することが重要である。
これを壁とすれば,壁には
a)実力不足(専門によるシステム力の狭さ)
b)常識の壁
c)解決されていない壁
があるのではないか,と考える。
3. 課題克服方法
技術上の悩みや課題を解決するために,多くの企業では研修プログラムを持っている。OJT(On the Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)はその代表である。
表1 OJTとOff-JTの比較
企業では生涯にわたって体系的な教育プログラムが整えられていることも多い。技術教育だけでなく,技能教育,営業教育,経営教育など多彩なプログラムが,入社時からベテラン層に至るまで用意されている。
また、技術上の壁を作らないために失敗事例を知り,それを活かすことも大切である。企業によっては組織的にこれを実施している。例えば,「落穂拾い」の名でこれを実施している企業がある。それはミレーの落穂拾いとはちょっと意味が違い,失敗に学ぶことをいう。 「落穂」とは失敗を指し,「拾う」とは失敗を隠さずに原因を明らかにし,その後に役立てることにある。失敗の伝承には,それを実現する企業文化が必要である。この例は,失敗の心を伝えて実行し,それを脈々と受け継ぐ仕組みである
失敗談や悩みなど,過去の経験を共有することが,壁を感じたときへの解決策の一つではないかと考える。
4. 具体的な失敗例
筆者は,あるメーカーで産業機械の駆動・制御装置の開発を担当していた。この開発時に出会った失敗例を具体的に述べる。これらの技術上の悩み、失敗の経験を通し、そこからの教訓を技術継承としてまとめると次のように要約される。
4.1 実力不足の壁
①基本にかえる。システム全体でみる。
②事前に世の中での問題や解決策を調べる。
③必要に応じて,その問題の専門家に相談する。
④このような失敗を許す風土も重要と思われる。
4.2 常識の壁
⑤常識は必要であるが,とらわれない。
⑥本質は何かを見極める力。
⑦場合によると,周囲への説得。
4.3 解決されていない壁
⑧製品化は技術だけで考えない。
⑨利用技術も含めて課題解決にあたる。
⑩さまざまなケースの想定が必要である。
5. あとがき
AI社会が到来する。技術者とは何かが改めて問われる時代になると思われる。
日々の仕事の中で,
1)疑問をもつ。
2)課題を発見する。
3)それを整理する。
が重要である。