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夢を語ろう

夢を語ろう新電気文明社会の将来

鈴木   浩 (日本経済大学大学院)

Engineeringthe FutureNew Eraof Smart Society
Hiroshi Suzuki (Japan Universityof Economics,GraduateSchool of Business)

はじめに
 我が国の新しい科学技術基本計画では、これからの社会 に Society5.0、あるいは超スマート社会、と名付けている。 新たな文明社会の実現のために我々エンジニアにできるこ とはなんであろうか。本シンポジウム「シニアエンジニア から若者へ―夢を語ろう―新電気文明社会の将来」は電気 技術がいかにそこに貢献できるかについて論じあうことを 目的としている。

振り返れば未来が見える
 将来の社会、技術を考えるときに、過去を見つめ、そこ から学ぶことが有効である。電気学会では、創設 120 周年
を迎えた 2008 年より、世の中にはあまり知られていない電 気技術も含め、社会生活に大きく貢献してきた電気技術を たたえる電気技術顕彰制度「でんきの礎-振り返れば未来 が見える-」を設立した。顕彰対象のカテゴリーを「モノ」、「場所」、「こと」、「人」の 4 種類とし、25 年以上経過した 国内の電気技術の業績に限定して顕彰している。これまで 10 回の顕彰を行い、67 件を顕彰している。その内訳は、延 べで、「モノ」49 件、「場所」12 件、「こと」32 件、「人」11 件である。図1の小冊子を作成して資料としている(1)。
その中でいくつか例を挙げてみよう。
「モノ」では、電気釜(第 2 回)、フルカラー大型映像装置(第 4 回)、魚群探知機(第 7 回)など
「場所」では、秋葉原(第 1 回)、明治期の古都における電気普及の先進事跡(第 3 回)、黒部川第 4 発電所(第 6 回)など
「こと」では、電力系統安定化技術(第 1 回)、家庭用ビデオと放送番組視聴の実現(第 5 回)、地図型自動車用ナビゲーション(第 8 回)など
「人」では、志田林三郎と多久市先学者史料館(第 1 回)、乾電池を発明した屋井先蔵(第 6 回)、鉄腕アトム(第 6 回) などがある。
 これらは我が国発のイノベーションといえるもので、電 気技術がいかに我々の生活や我が国経済を支えてきたかが うかがいしれよう。

Engineering the Future
 これは、スタンフォード大学の電気工学科入口に掛けら れている言葉で、「将来を工学する」といった意味である。 エンジニアリングの力を使って未来社会をすばらしいもの に作り上げてゆこうというものである。その為には、イノ ベーションが求められる。イノベーションには、インクリ メンタルな、あるいは改良型のものと、パラダイムを変革するようなブレイクスルー型
のものがあり、これからの社会の構築には後者が大変重要となってくる。その実現にあたっては従来の延長線上で物事を考えていては限界のあることが示されている。

メタエンジニアリング
 ますます混沌としてくる将来社会においては、改良型の イノベーションだけでは新しいパラダイムに結びつかない。 改良型のイノベーションの創出には従来型のエンジニアリ ングが有効であったことは前に述べた例からもうかがえる。 従来型のエンジニアリングとは、課題が与えられた時に、既存の制約条件のもとで、技術を用いて、最適な回答を得 ることであった。
 これから必要となるエンジニアリングを、メタエンジニ アリング(旧名根本的エンジニアリング)と名付けている(3)。 すなわち、エンジニアリングを4つのプロセスにわけ、そ れぞれをつないで課題を解決し、社会価値を高めてゆくプ ロセスと定義する(図 2)。
その 4 つのプロセスは以下に定義できる。
Mining: 顕在化している社会課題やニーズに対し、なぜ課 題やニーズなのかを問うことによって解決されるべき課 題や満たすべきニーズを定義するプロセス。 ここでは、課題に対して why を問うことが重要である。
Exploring: Mining で見出した課題の解決やニーズへの対 応に必要な知と感性の領域を俯瞰的に特定するプロセス。 ここでは、制約を外して考えることが重要である。
Converging: Exploring のプロセスで特定された領域の知 と感性を、統合・融合することにより解決案を創出するプ ロセス。 ここでは、解決策として技術にとらわれないことが重要である。
Implementing: Converging のプロセスで創出された解決案 を、社会とのエンゲージメントにより社会実装を図ること によって、新たな社会価値を創出するプロセス。 ここでは、最適を求めるのではなく価値を生み出すことが 求められる。
 メタエンジニアリングでは、これら 4 つのプロセスを MECI と称し、そのスパイラル展開、そしてその展開をうな がす「場」のアクティビティを重視する。
場: MECI の個々のプロセスの機能、及びプロセス間の移行 を促す作用を持つ。 モノづくりの視点からこれら二つのエンジニアリングの違いをいくつかの例で示したのが図 3 である。

大学院における教育
これまで大学院博士課程においては優れた研究者、アカ デミシャンを育てることが大きな目標であった。一つの研 究テーマを深堀し、研究の進め方を教育してきた。これか らは、博士課程において、イノベーションを創出できるよ うなグローバルなリーダーを育ててゆく必要がある。その 目的で、文部科学省がはじめたのが「博士課程教育リーデ ィングプログラム」である。これは、専門分野の枠を超え て博士課程前期・後期一貫したプログラムで、俯瞰力と独 創力を備え、広く産官学にわたりグローバルに活躍するリ ーダーを養成する事業である。年間予算約 178 億円で 7 年
間続くもので、32 大学、62 プログラムが採択されている。 すでに終了したプログラムもあり、幅広い視野を持ったリ ーダーとして学位を取得した者が多く輩出されている。こ れからのイノベーション創出に期待ができよう。

おわりに
上記のような観点から、本シンポジウムでは、電気技術 開発・応用の歴史を紐解き、それを通じてイノベーション を創出しようとする若者に夢を与えられるようなテーマで の講演と、会場を含めた討論を行う。

文 献
(1) http://www2.iee.or.jp/ver2/honbu/30-foundation/index.php
(2) M. Stefic & B. Stefic, “Breakthrough” MIT Press,2004(訳本「ブレイクスルー」鈴木浩監訳、OHM 社、2006 年)
(3)「我が国が重視すべき科学技術の在り方に関する提言〜 根本的エンジニアリングの提唱〜」日本工学アカデミー、2010