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電力供給システムとAI(概要)

佐野光夫、竹林知善

(IEEJ プロフェッショナル)、((株)富士通研究所)

1.はじめに
  近年、電力供給システムは、地球温暖化対策や電力自由化による制度改革等に対応し、大きな変革に直面している。すなわち再生可能エネルギーによる分散型電源の大量連系や、スマートメータの取り付け等、従来に無い取り組みが急速に進められている。このような変化の影響は、特に需要家サイドに近い配電網において顕著であり、配電網の運用、保守に一層の効率化を追求した新たな配電高度化のニーズが高まっている。本稿では、従来の配電高度化の変遷を振り返り、配電高度化の進展に対応したAI 技術の将来性について考察する。
2.配電高度化の変遷
 高度成長期における社会インフラの一端を担う電力供給システムは、常に電力の供給力確保と安定供給を求められてきた。このため配電網においても、設備拡充と改良が推進され、同時に事故時の早期復旧のため、時限式事故捜査方式と呼ばれる事故区間探査法が広く適用され、これらの方策により我国の供給信頼度は世界のトップクラスのレベルとなった。その後低成長期に入ると、作業員の現地出向業務の減少や設備稼働の向上等、コスト低減による業務効率化を図る新たなシステムの導入が求められ、配電網に配電線情報を収集する双方向の配電線搬送や通信線によるネットワークを施設し、開閉器を遠方監視・制御する配電自動化システムが開発され適用されるようになった。さらに近年、地球温暖化対策として低炭素社会の実現に向けた高まりが電力自由化の制度改革等と相俟って、配電網に大きな変化をもたらした。このため、いわゆるスマートグリッドを指向した新配電自動化システムやスマートメータが開発され、よりきめ細かな配電線情報や需要家情報を光ネットワークや無線等で収集するシステムの導入が始まった。
3.最近の配電高度化による収集データ
 このような配電網の情報化が一層進展した結果、配電線の状態を常時面的に把握するデータが収集可能となりつつある。今後分散型電源の連系に伴い発生する潮流や維持電圧への対応、配電設備の劣化予知、事故解明への対応等の配電業務の効率化において、データの活用が期待される。またスマートメータは、電力の遠隔検針、新電力のいわゆる「同時同量」の確認、エネルギーマネージメントシステムへの情報提供等、多方面のニーズに応えるため、多様のデータを収集している。したがって、需要家の負荷実態を正確に把握できるので、精度の高い系統の需給予測や配電設備の適切な稼働等、配電網の運用や計画業務への活用も期待される。

4.配電網におけるAI 技術適用性と試行例
 AI 技術適用の目的は、人が介在せざるを得なかった作業や業務を支援あるいは自動化し、人の負担を軽減するとともに、現場のノウハウの伝承を実現する等である。このような観点から、配電分野においても様々な応用が考えられており、AI 技術を適用し配電線情報を高速かつ適確に解析することにより、事故現象の認識や原因究明などの高度化が期待され、さらに需要家情報に基づき電力需要予測の精度の向上や、より高度な設備運用解析が可能になると予想される。これにより、設備形成、運用の最適化や、設備診断等の業務効率化にも寄与することが考えられる。すでに、機械学習やシミュレーションによる配電網管理の高度化や効率化を指向したシステムとして、スマートメータからの需要家情報をAI 技術により解析し、配電線全体の電圧や潮流分布をリアルタイムで効率良く把握できるようにした実現例もある。
5.おわりに
 配電網における配電線情報や需要家情報のようなビッグデータの蓄積は、今後AI 技術の導入適用より業務全般の革新を推進する条件が一歩前進したと考えられる。このような効率化の推進役を担うのはやはりエンジニアの人知であり、電力技術を牽引する若いエンジニアの課題への挑戦の気概と、AI 技術の一層の発展を期待したい。