ヘッダーieejprologo
 

定例会講演概要

                加速器電源の開発 ―トリスタン計画からJ-PARCまで―

                                         古関 庄一郎 (古関PE事務所)
                                                                                      (2016年11月17日講演)

  加速器とは荷電粒子を加速する装置の総称であり,高エネルギー物理学,医療など広く利用されている。演者が関与してきた世界トップクラスの性能をもった加速器の電磁石電源について紹介する。
(1) 加速器と電磁石電源
高エネルギー加速器としてシンクロトロンが広く用いられている。荷電粒子のビームを軌道に沿うように曲げる偏向電磁石とビームを収束させる四極電磁石とによってリング軌道上でビームを周回させながら高周波で加速する加速器である。その電磁石電源は,電流変動・リプルが10–4以下の高精度高安定度電源でなければならない。
(2) 高エネルギー加速器研究所 (当時) トリスタン計画 衝突リング電源
トリスタン計画とは,当時世界最高エネルギーの30 GeVに電子・陽電子を加速して衝突実験を行い,トップクォークの発見などを目的としたものである。衝突リングでは12 %の電磁石電流で電子・陽電子を互いに逆向きに入射し,電磁石電流を増加させながら30 GeVまで加速,その後そのまま2時間,109回以上周回交差させて衝突させる。このリングの80組の電源を担当した。
電磁石電源は,24パルスまたは12パルスのサイリスタ変換装置で構成した。当時開発されていた二つの新技術,高安定度仕様を満たすための高精度瞬時電流検出器,低リプル仕様を満たすための直流アクティブフィルタを適用した。1分間での加速中のトラッキング誤差10–3以下も満たした。
(3) 放射線医学総合研究所重粒子線がん治療装置HIMAC 主加速器電源
HIMACは世界初の重粒子線がん治療装置である。重粒子線は,がん細胞を狙い撃ちできる特性がある。核子あたり8 MeV,上下2段のシンクロトロン (主加速器) によるビームで水平・垂直照射を行う。この電源を担当した。
電源は,2秒周期で入射→加速→出射を繰り返すパターン電源である。アクティブフィルタでリプルを抑制するだけでなく,制御操作も行う方式を新規開発し,電源の制御周波数特性を数百ヘルツまで拡大した。これによって高速パターン通電を可能とした。トラッキングは繰り返し制御で満たした。
(4) 理化学研究所SPring-8 シンクロトロン電源
SPring-8は,世界最高性能の放射光 (X線) を発生する大形放射光施設である。放射光を発生する蓄積リングに電子または陽電子を8 GeVまで加速して入射するためのシンクロトロン電源を担当した。
HIMAC電源と同様のパターン通電電源である。制御ゲインを高くし,さらにパターンに対応したフィードフォワード電圧信号を入力することでトラッキング性能を満たした。
(5) 高エネルギー加速器研究機構/日本原子力研究開発機構 大強度陽子加速器施設J-PARC RCS電源
J-PARCは,素粒子物理,生命科学など幅広い分野の最先端研究を行うための陽子加速器群と実験施設群であり,その中心は世界最高クラス1 MWの陽子ビームを出射する3 GeV RCS (ラピッドサイクルシンクロトロン) である。そのRCSの電源を担当した。
RCSの電磁石電源は共振回路による25 Hzの交流電流を直流バイアスして励磁する方式であり,1組の偏向電磁石電源と7組の四極電磁石電源とからなる。電源は,IGBTを用いた多重チョッパに進化し性能が大幅に向上した。並列共振方式と直列共振方式との電源を組み合わせて構成した。
このほか,RCSに入射させるための大電流パルス電源,RCSの前段の線形加速器の高周波用電源も担当した。