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シンポジウム講演

一人のエンジニアの思い―
安心・安全神話からの脱却とリスク教育の重要性―

          深川裕正(IEEJプロフェッショナル)

1. まえがき:
 本シンポジウムの目的は、IEEJプロの日頃の活動や埋没しつつある「語られざる秘話」の紹介であり、原発トラブルを経験し、如何に安心・安全神話が形成されたかを反省し、リスク教育のあり方を根底から考え直し、「元気の出る日本」を展望することにある。
2. 原発トラブルから学ぶこと:
 東日本大震災時に東日本で稼働中の4箇所の原発がトラブルに見舞われたが、福一原発を除き、最悪の事態を回避することができた。そこで、福島第二(以下福二と略称)での過酷事故時の対応と女川の語られざる秘話を紹介し、技術者のあるべき姿を模索する。
・福二の対応:大震災当日は4基が定格運転中であった。原子炉建屋は一部を除き冠水し、外部電源はも4回線中3回線が使えなくなったが、中央制御室で各炉の状況を把握することができ、所長はリーダーシップを発揮し、全ての炉で冷温停止に成功した。電源確保のため、通常1か月かかる仮設ケーブルの敷設を1日で終えている。
・女川の対応:津波の襲来高を高く設定することに固執した地元出身技術者「平井弥之助」(実は筆者が入所した電中研の技術研究所所長)のお蔭で、津波からの冠水を免れることができたが、彼の残した言葉:「法律は当然順守しなければならない。しかし、技術者には、法令に定める基準や指針を超え、結果責任が問われる」は今でも珠玉の輝きを発している。
3.我が国のリスク対応-欧米との原発のSAに対する比較-:
 スリーマイル島やチェルノブイリの原発トラブルを通して日本でも対策や研究が行われてきたが、欧米との比較の中で、如何に日本の原発が安全性の面で後れを取り、「神話」が形成されたかを分析するとともにリスク対応で日本の特有の問題点を指摘する。
「人は生まれ育った土地の気象から決して逃れられず、気象によって人格が形成される」
の竹村公太郎氏によれば、西欧文明やイスラム文明の根底に「一神教」があり、「絶対」の存在を認めるが、「八百万の神」を信仰する日本人は原則を持たない。日々変化する気温や降雨、大地震や火山爆発が突然襲って来る日本列島で、ルールを決めてもすぐに壊されてしまうため、明文化しない融通無碍な社会を形成した。災害に備えるため、「ハザードマップを作成すると、地価が下がったことをどうしてくれるのか」などの反論に遭う。一般に
欧米では、リスクゼロにはできないので、安全性を欲求する[safety追求型] だが、
我が国は、リスクそのものを受け入れない。危険をなくせと要求[security追求型]

リスクに対して、未然防止策としての「リスクマネジメント」と、過酷事故になった時の被害最小にするための対応としての「クライシスマネジメント」があることを説明し、特に、過酷事故(SA)に際し、リーダーシップの発揮が必要である。災害大国日本にあって、真に安心・安全な社会を構築してゆくためには学問的な取組みが必要で、日本学術会議も2000年2月提言を行った。これに答えて、関西大学は社会安全学部を創設している。
4.おわりに: NHK取材班の著した書物から:
 原発事故を起こした東電の元幹部は、一瞬何かを考えるかのように沈黙したのち、意を決したように口を開いた。「つまるところ安全とは、組織文化だと思うんです」と。そしてこう続けた。「組織が技術に本当に敬意の念を持っているのか。そこが問われている。技術への敬意が薄れた時、安全は必ず劣化する」と。
今後高度成熟社会の重要な一翼を担う大学の卒業生には、一般教養として「安全意識の重要性」「まさかの時への対応」を基本から身に着けていることは必須であり、倫理に関する授業とともに安心・安全教育の充実を図ることを望まれる。