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定例会講演概要

事例12:「訓練と非常事態時の行動(ハドソン川の奇跡)」を題材に
         電気学会倫理委員会 教育WG幹事 鳥養 茂
 
(平成27年11月17日講演)

技術者倫理教育で活用されるケースメッソドには失敗事例を取り上げたものが多い。技術者倫理事例集(Ⅰ)を活用した研修会のアンケート等に良い事例も取り上げてほしい・・との意見が多くあり、事例集(Ⅱ)作成に際して良い事例の一つとして本題材を取り上げた。「新幹線の地震対策」も同様の事例として取り上げているので合わせて参考にして頂きたい。

1. 倫理委員会技術者倫理「事例集」の狙い

人は倫理的判断を要する場面に遭遇したとき、自らの倫理観に基づいて判断する。電気学会は電気技術に関わる人たちが、そのような場面に遭遇したときのよりどころとなる「電気学会倫理綱領」と「電気学会行動規範」を持っている。この綱領、規範をよりどころとして判断できるようにするためには、倫理的判断を要する事例を用意し、その事例を客観的に評価、あるいは主観的に考察する練習が有効とされている。倫理委員会では、この練習をするための教材として「技術者倫理事例集」を作成し、さらに大学や企業などにおける技術者倫理研修を企画あるいは講義する方に限定して、講義時の感想を提出していただくことを条件に希望者へティチングノート(TNノート)ならびに研修用パワーポイント集(PPT)を無料配布している。

2. 事例12の狙い(PPT集からの抜粋)

省力化,自動化が進む現代社会において,安全へのリスクを低減させるために各種マニュアルを整備し,訓練することにより事故を未然に,あるいは最小限にすることが求められている。このような社会において,マニュアルにない(想定していない)事象が発生した場合の対処方法については十分対応ができているとは言えない。東日本大震災における原子力発電所の事故においても同様なリスクが潜在していたものと考えている。

本事例は複雑で巨大な航空機業界のシステムのなかで,操縦技術だけではなく様々な関連知識を習得した機長が,マニュアルにない事象に遭遇した際に落ち着いて状況を判断し不時着水を決断したこと,ベテラン客室乗務員の的確な対応により短時間に全員を機外に脱出させたこと,さらに迅速な救助活動がなされたことにより,奇跡的に全員が生還できたケースである。また地上から支援した空域管制官の落ち着いた対応についても学ぶべきものがある。私たちは複雑で巨大なシステムの中で,たゆまない技術の研鑽・訓練により,想定していない事象に遭遇した時でも「リスク」を軽減させることができることをこの事例を通じて学んでいただきたい。

3. 事例の概要(事例集Ⅱ 事例12の抜粋)

2009115153分,ニューヨーク発シャーロット経由シアトル行きUSエアウェイズ1549便(機種:エアバス社A320-214)は,ほぼ満席の乗客150人を乗せ,ニューヨーク ラガーディア空港の出発ゲートを離れた。離陸から約2分後,両エンジン同時バードストライクが発生し飛行高度の維持が不能な状態に陥った。機長はただちに引き返そうとするが,飛行状態から引き返せないと判断した。地上管制官は周辺の空港情報を伝えるが、失敗した場合の被害などを想定し機長はハドソン川に降りることを決断した。エンジン再始動を試みつつ制御システムのアシストを受けながら、時速約232 kmでハドソン川に不時着水した。機体は一部が損傷,着水後まもなく後方から浸水しはじめた。客室乗務員は前方左右の2か所と機体中央にある非常口から乗客を両翼上に誘導,短時間で全員を機外へ脱出させた。機長は航空機の停止操作を終えてから,客室に移動し乗客が取り残されていないかを確認してから最後に機外に脱出した。着水現場では最初に周辺のフェリーが救助活動にあたった。乗客乗員全員が脱出後、着水してからは約1時間後に機体は水没した。

この事故による死傷者数は,死者0名,重傷者5名,軽傷者95名であった。

4.「考えてみよう」について

事例の各編にはあらかじめ読者に考えていただきたい設問を用意している。教育・研修を効率的に進め、かつ良い成果が出るよう議論してほしい点を記述しているもので、別冊のTNノート・PPT集の中では各設問のポイント等を解説している。

5. 補助教材について

①PPT集:大学や企業などで教育・研修を企画したり、講義したりする人を支援するため、事例毎PPTを用意している。事例毎に、事例の狙い事例内容の補足説明参考文献倫理綱領・行動規範との関係についての4項目で構成している。カスタマイズ(内容に影響がない範囲において)して活用できるようにあらかじめ作者の著作権に関する承諾をいただいている。詳しくは事例集を参照

TNノート:事例研修を行う際の関連情報をまとめた資料で、研修担当者の講義準備作業を軽減することなどを目的としている。①②とも必要により無料配布しているので学会事局に問い合わせしていただきたい。     以上

  事例12作成にあたっての主な参照資料

(1)「ハドソン川の奇跡 機長,究極の決断」C.サレンバーガー著:

十亀20111月,静山社文庫

(2)Loss of Thrust in Both EnginesAfter Encountering a Flock of Birds and Subsequent Ditching on the Hudson River US AirwaysFlight 1549 Airbus A320-214,N106US Weehawken, New Jersey January 15,2009NTSB AccidentReport NTSB/AAR-10/03, PB2010-910403

(3) 技術者倫理事例集()()  電気学会倫理委員会 オーム社

鳥養(とりかい) 正員19723月武蔵工業大学電気工学科卒業現在の東京都市大学  
           現在は日本工営株式会社に従事

          技術士 電気電子部門(発送配変電)専門は遠方監視制装置